聞いてますか?聞いてますか?

ある夏の暑い夜のことだった。家でネットサーフィンをしているときに知らない番号から電話がかかってきた。俺は無視した。それから30分も経たないうちにまたさっきの番号から電話がかかってきた。もちろん俺は無視した。

 

夜中の12時過ぎ、俺は眠りについた。寝ているとまた電話がかかってきた。あの番号からだった。俺はさすがに頭にきて、電話に出て文句を言ってやろうと思った。

俺は電話に出た。「いい加減しつけえぞ!何時だと思ってんだ!」と出てすぐ怒鳴った。

そうすると一旦間をおいてから、「聞いてますか?聞いてますか?」とかけてきたやつは言った。女の声だった。

こっちの声が向こうには届いていないのか?と思い、「聞こえてますよ。一体要件は何でしょう?」と言った。

そしたらまた「聞いてますか?聞いてますか?」と電話の女は言った。本当に聞こえてないのか?それともいたずらなのかわからないが、これ以上構っていても仕方がないので、電話を切ってまた眠りについた。

 

また電話がかかってきた。あの番号からだ。時計を見たら午前4時30分だった。俺はまたどうせかかってくるんじゃないかという確信を持っていた。「やっぱりかかってきたか。だがこれでおさらばだ!」俺はこの番号を着信拒否にした。これで安心と思い、目を閉じた。

 

なかなか眠りにつけずにいると、また電話がかかってきた。時間は4時44分だった。「嘘だろ」と言って番号を確認すると、あの番号ではなかった。なんだ違うじゃねえか。それにしても今度は誰だよと思い電話に出た。

「あのーこんな時間に何の御用でしょうか?」と今度は丁寧に言った。

しばらく間があって、電話の相手が口を開いた。「聞いてますか?聞いてますか?」

俺はぞっとした。「なんでまたさっきの女なんだ?番号が違うのになんでだ?」さっきの番号も今の番号も携帯電話の番号だった。「携帯を二台持ってんのか?それとも誰かに借りたのか?」おれがぶつぶつ言っているとまた女は「聞いてますか?聞いてますか?と言ってきた。

「てめー誰なんだ、いい加減にしろ!!」と俺は怒鳴った。

そうするとまた「聞いてますか。聞いてますか。」と返してきたので、俺は「てめえこそ俺の言ってることちゃんと聞いとけやボケナス!!」と言った。

 

10秒くらい沈黙が続いた。俺は電話を切らずに相手の反応を待っていた。

電話の女がなにか言った。「・・・ますか?・・・」今度は小声で聞き取れなかった。

「聞こえねえぞおい」と俺が言うと電話の女はこう言った。

「死んでますか?死んでますか?」

俺は恐怖で固まった。何か言い返そうとすると、電話の女は、

「死んでますか?死んでますか?死んでますか?死んでますか?死んでますか?死んでますか?死んでますか?」と死んでますかを連呼してきた。しかも声がだんだん大きくなってきた。

俺は「こいつは完全にやべぇやつだ」と言い電話を切った。電話を切ってすぐ、

ピーンポーンとインターホンのチャイムが鳴った。俺は心臓が止まりそうになった。

俺は恐る恐るゆっくりと玄関のドアに近づいた。ピーンポーンピーンポーンと俺が開けるまで誰かがインターホンを押し続けている。

 

俺はドアを開けずに外を覗いた。何も見えなかった。

「あんたなんだろ。今日電話を何度もかけてきてるあんたなんだろ」とドアを開けずに語りかけたが何も反応は返ってこない。

ピーンポーンとまたチャイムが鳴った。

「警察でーす」と男の声が聞こえた。

「え?警察?・・・そうか、あの女捕まったのか」俺は「今開けますー」と言ってドアを開けた。

 

!?

人の姿がなかった。

「警察って、今言ったよな?」俺が混乱して回りを見回していると、背後から、

「死んでますか?」と俺の部屋の中の方から、あの電話の女の声が聞こえた。

俺は後ろを振り向いた。

俺の部屋の中には、全身がびしょ濡れで、前髪で目が隠れていて、首を左右に降りながら、ニタニタ不適な笑みを浮かべている女がいた。

俺は、恐怖で全く身動きがとれなかった。

「なんで死んでるやつから電話かかってきたんだろうな」と俺が言うと、女はこう言い返した。

「ちゃんと死んでなきゃ、駄目じゃないですかぁ」

 

俺は目を覚ました。どうやら玄関の前で気絶していたようだ。朝の6時くらいか?同じ階の住人は誰もまだ出勤していないんだろう。俺がこんなところに倒れているのを目にしたら、さすがに声をかけるだろうしな。

俺は気絶中、夢を見ていた。夢の内容で思い出したことがあった。「聞いてますか」という言葉は、俺自信が日頃から頻繁に発している言葉だった。

俺は自他共に認めるクレーマーだ。クレームは電話でしたり、直接店に出向いてしたりした。よく「俺の話聞いてますか?ねぇちゃんと聞いてますか?」みたいなことを自分が言っていたのを思い出したのだ。

そうか、俺のクレームで、心を痛めて自ら命をたったんだな、あの女の幽霊は。

 

俺はもうクレームなんかしないぞと心に誓った。

 

俺は冷蔵庫から紙パックのりんごジュースを取り出した。

「このりんごジュース、昨日の夜飲んだときにいつもと違う味がした気がしたんだよな。だからすぐに電話でクレームいれようとしたら、例のあの電話がかかってきて、それどころじゃなくなったんだよな」と言って俺はりんごジュースをコップに注ぎ、飲んだ。

「なんだよ、旨いじゃねえか。俺の気のせいかよ!・・・グフッ!グァグァアアア・・・ウッ」

俺はジュースが入ったコップを床に落とし、その場に倒れた。

息を引き取る前にこんな声が耳許で聞こえた。

「ちゃんと死ねて良かったですねぇ」