映画館の夢

俺は映画館で映画を見ている夢を見ていた。この夢はもう数えきれないくらい見ている。

 

館内には二人しか客はいなかった。俺と四席くらい前にもう一人。多分男だろうが顔はわからない。

 

映画の内容はなんかよくわからないが、19世紀のアメリカを舞台にしたような映画だ。彼氏と喧嘩してパーティを抜け出した金髪の女性がウイスキーを口にする。そのあと女性のアップになり、スクリーンの正面を向いて指をさし、「キャーーーーーー」と叫ぶ。女性は「死んでるわよその人ーー!」と言っている。だが肝心の死んでいる人間のシーンは映らない。女性はスクリーンの中で「あなた何で気づかないの!その人死んでるわよ!」みたいなことをずっと言っていて場面が移り変わらない。俺は「なんか変な映画だな」と夢の中で思っている。

 

だんだんと金髪の女性は俺に向かって叫んでいるようにも思えてきた。

 

「死んでいるってもしかして?」前に座っている客が頭を右肩に倒した。なんか様子がおかしい。ぐったりしている。俺は席を立って前の客の方に近づいた。そして顔を除いた。顔を見た俺は「うわああああああああああ」と叫びそこで夢から目が覚める。

 

もう何回見たかわからないくらいこの夢を見ている。何回見ても夢の中で夢と気づくことはない。なんで前に座っている客の顔を見て叫ぶのかわからない。きっと凄い顔をしていたのだろうが、この部分だけはいつも夢から覚めると忘れてしまっている。

 

俺はこの夢がトラウマになってもう何年も映画館で映画を見ていない。

 

ある日幼稚園に通っている娘が画用紙に家族三人を描いた絵を見せてくれた。その絵の中の俺の顔が肌色で塗りつぶされているだけで、のっぺらぼうみたいだった。妻と娘の顔は普通に描かれているのにだ。この絵を見て俺は思い出した。夢の中で見た死んでいる前に座っていた客の顔はこの絵のようにのっぺらぼうだったのだ。

 

映画館の前に座っていた客は俺自身だったのだろうか。